オフィスネットワークを支えてきた技術の歩み
「LAN(ローカルエリアネットワーク)」という言葉、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
LANは、限られた範囲(オフィス、学校、家庭など)で使われるネットワークで、パソコンやプリンタ、サーバーなどの機器同士を接続し、データを共有するための基盤です。
現代のビジネスや働き方において、LANは「当たり前の存在」になりましたが、その歴史や進化をたどると、驚くべき発展の過程が見えてきます。
今では当たり前のこの道も、誕生から50年あまりの歴史があります。
1970〜1980年代:LANの誕生と初期の歴史
アメリカで「Ethernet(イーサネット:有線LAN規格)」というつなぎ方が発明されました。
当時はパソコンではなく、大型計算機(Mainframe:メインフレーム)やミニコン(Minicomputer:中型コンピューター)同士をつなぐためのものでした。
日本では…
大学や大企業の研究所の一角、白衣や作業着を着た技術者たちが、分厚い計算機を並べ、その横で太くて硬い同軸ケーブル(Coaxial Cable:同軸LANケーブル)をつなぎ合わせていました。

そこでは、設計図データ(CAD:Computer Aided Design)や計算結果をやり取りするために、新しい「コンピューター同士をつなぐ道」が試されていたのです。
社員の多くはその存在を知りませんが、一部の技術者は画面越しに短い電子メール(Email)を送り合い、紙では届かないスピード感を味わっていました。
1990年代:Ethernetの普及とLANの大衆化:オフィスで当たり前に
「10BASE-T(ツイストペアケーブルを使った10MbpsのEthernet)」という方式が普及し、ケーブルを集線装置(Hub:ハブ)につなぐだけでパソコン同士が通信できるようになりました。
Windowsの登場とともに、LANは一気にオフィスへ広まります。
日本では…
営業部では共有フォルダに最新の見積書が置かれ、総務部は毎朝ネットワークプリンタで大量の社内文書を印刷していました。

紙で回していた稟議書も、グループウェア(社内情報共有ソフト)上でクリック一つで次の人へ送れるようになり、「ハンコをもらうためだけに隣のフロアへ行く」時間が減りました。
学校では新しいパソコン教室が整備され、教師が一斉に生徒の画面を操作できる授業支援ソフトで授業を進める光景が珍しくなくなります。
LANは、オフィスと学校の仕事や学び方を静かに変えていきました。
2000年代:高速化と無線LANの普及
LANの速度は100倍(1Gbps:1000BASE-T)になり、大きなファイルも一瞬で送れるようになりました。
無線LAN(Wi-Fi)も登場し、ケーブルが届かない場所でもネットワークに接続できるようになります。
日本では…
情報システム部の担当者がLANケーブル(Twisted Pair Cable:より対線ケーブル)を束ね、1本ずつ丁寧に差し込んでいきます。

会議室では、ケーブルを伸ばさなくてもノートパソコンが無線でネットにつながり、その場で資料を電子メールで送る風景が当たり前になりました。
倉庫や工場では、バーコードリーダーをピッと読み取るだけで在庫が更新され、紙と電話でやっていた確認作業が減っていきます。
2010年代:クラウドと超高速LAN10Gbps時代へ
インターネットのクラウドサービスと社内LANが手を取り合う時代になりました。
サーバー間は10Gbps(10GBASE-T)の超高速LANで接続され、映像や大量のデータもスムーズに流れます。
日本では…

スーパーや店舗では、本部が全国の売上(POS:Point Of Sale)や在庫、監視カメラ(IP Camera)の映像をリアルタイムで確認。「どこにいても仕事が進む」時代が本格的に始まりました。
2020年代〜:IoTとスマートオフィス時代のLAN
Wi-Fiはさらに速くなり(Wi-Fi 6/6E/7)、カメラ(Security Camera)、センサー、照明(Smart Lighting)などのIoT機器(Internet of Things)がLANにつながります。オフィスや工場はますます賢くなっています。
日本では…
社員は自宅から安全に社内ネットワークへアクセスするため、ゼロトラスト(Zero Trust)やVPN(Virtual Private Network)を利用し、オンライン会議で全国の仲間と顔を合わせます。

新しいオフィスでは、照明や空調(HVAC:Heating, Ventilation, and Air Conditioning)が自動で調整され、会議室の予約もスマホから可能に。
学校では生徒一人ひとりにタブレット端末が配られ、医療現場では電子カルテ(EMR:Electronic Medical Record)や検査画像(PACS:Picture Archiving and Communication System)が一瞬で病棟や遠隔地の病院に送られます。
LANは、もはや特別なものではなく、私たちの生活や仕事の“空気”のような存在になりました。
有線LAN vs 無線LAN:当面の今後の展望
今後のオフィスネットワークは、
- 安定性・セキュリティを重視する有線LAN
- 柔軟性・拡張性を重視する無線LAN
の「ハイブリッド型ネットワーク」が主流となると予測されています。
さらに、データ量の増大やクラウド活用の加速に伴い、10GBASE-T(10Gbps)などの高速LANの需要も高まるでしょう。特に、動画編集、クラウドバックアップ、大容量ファイルのやり取りなどを行う法人環境では、有線LANの高速化はもはや必須となりつつあります。
通信品質を保ちつつ、レイアウト変更や拠点間連携を容易にするために、両者を上手に組み合わせたネットワーク設計が求められています。
これからもLANは、もっと速く
今では、私たちが気づかないところで、毎日何万回も情報を運び続けています。これからもLANは、もっと速く、もっと便利、そしてもっと安全な「見えない道」として進化を続けていくでしょう。

近い将来のLANはどうなる?
- さらに高速化:25GbE(25 Gigabit Ethernet)や40GbE、場合によっては100GbEクラスが一般企業にも導入され、大容量データや映像編集(8K/RAW Video Editing)が日常的に行えるようになります。
- より賢いネットワーク管理:AI(Artificial Intelligence)による自動トラブル検知や自己修復(Self-Healing Network)が標準機能となり、障害対応がほぼ自動化されます。
- 完全な有線・無線融合:有線LAN(Ethernet)と無線LAN(Wi-Fi/将来のWi-Fi 8やLi-Fi:Light Fidelity)がシームレスに切り替わり、利用者は接続方法を意識せず使えるようになります。
- エネルギー効率の向上:PoE++(IEEE 802.3bt)を超える新給電規格が登場し、照明・空調・センサー類をすべてLAN経由で電力供給し、配線と電源工事がさらに簡単に。
- 高度なセキュリティ常態化:ゼロトラスト(Zero Trust)モデルの完全実装により、LANに接続するすべての機器が常に認証(Authentication)と暗号化(Encryption)を行い、侵入リスクを最小化。
- 業界別最適化LAN:医療、教育、製造、物流、小売など、それぞれの業種に合わせた最適化テンプレート(Industry-Specific Network Template)が標準提供され、構築スピードが大幅に短縮。
こうした進化により、LANは単なる通信インフラではなく、業務効率・安全性・快適性を同時に高める「企業の頭脳(Corporate Brain)」のような存在になっていくでしょう。
LANの歴史はITの進化とともに歩んできた歴史
LANの歴史は、まさにITの進化とともに歩んできた歴史です。
時代ごとの課題やニーズに応じて、技術は進化し、私たちの働き方や生活様式を支えてきました。
これからのネットワーク設計においても、過去の技術の変遷を知ることは大きなヒントになります。
「正しい知識」と「将来を見据えた選択」で、快適で強固なLAN環境を構築しましょう!